はじめに
千葉商科大学准教授で労働社会学者の常見陽平氏と、ReHacQプロデューサーの高橋弘樹氏が、現代の就活・雇用・働き方について対談した動画が公開されました。
動画タイトル:【高橋弘樹vs常見陽平】プロが解説!就活と働き方の最前線「新卒でしか入れない企業」は減った?就活最新情報【ReHacQ】
チャンネル名:ReHacQ
動画リンク:https://youtu.be/pYqqaPWdVNA?si=JAxMffGfYFpo6bKH
動画では、総合商社の年収高騰、大企業の初任給引き上げ競争、メガバンクにおける中途採用の急拡大、黒字リストラの常態化、ジョブ型雇用の広がりなど、日本の雇用市場に起きている構造変化が多角的に語られていました。いずれも具体的な企業名や数字が挙がっていたため、本記事ではその主要な主張を公開データで検証しました。
以下、動画内で示された数値や事実関係について、公的統計・企業発表・報道をもとにファクトチェックしていきます。
調査①:総合商社の平均年収「コロナ前1,450万円 → 現在2,050万円」は本当か?
動画での主張:
常見氏は、総合商社の平均年収がコロナ前は約1,450万円だったが、現在は約2,050万円程度に上昇しているという趣旨のことを語っていた。資源価格の高騰などを背景に、財閥系商社を中心に大幅な賃金上昇が起きているという文脈での言及だった。
データによる検証:
2025年3月期の有価証券報告書に基づくと、三菱商事の平均年収は約2,033万円、三井物産は約1,996万円、伊藤忠商事は約1,804万円となっている(出典:就職エージェントneo / 日本経済新聞データ、2026年2月)。5大総合商社の平均年収帯は1,700万〜2,000万円超で推移しており、上位2社は2,000万円の大台を突破している。
さらに動画では、伊藤忠商事の部長クラスが年収4,000万円、若手の担当者クラスでも2,000万円に達するというニュースにも触れられていた。これについても、2024年9月に流出した内部資料によると、成績最優秀者の年収は部長級(BAND6)で最高4,110万円、担当者(GRADE3)で最高2,500万円とされている(出典:ダイヤモンド・オンライン、2024年10月 / 日本経済新聞、2025年10月13日)。ただし、これは全員に適用される水準ではなく、最高評価を得た場合の上限額である点に留意が必要。
結論: 概ね正確。上位商社で2,000万円超えは事実であり、業界全体の上昇傾向も確認できる。伊藤忠の数字も報道と整合するが、最高評価者の水準である点は補足が必要。
調査②:大企業の初任給「30万円超え」は当たり前になったのか?
動画での主張:
大企業の初任給は30万円を超えるのが当たり前になりつつあるという趣旨で語られていた。具体例として、東京海上日動火災保険が転居を伴う転勤に同意した場合に初任給を最大41万円に設定し、転勤なしの場合は30万円台前半とする制度を導入したことにも言及されていた。
データによる検証:
日本経済新聞の採用計画調査(2026年4月28日)によると、2026年度の大卒初任給を30万円以上とする企業は245社で、前年度比約9割増。回答企業の約2割に達した。就職人気企業ランキングの文系トップ20社では16社が30万円以上に到達している(出典:日本人材ニュースONLINE、2026年4月)。大卒初任給の平均額は26万7,220円(2026年度、過去最高更新)。
東京海上日動については、日本経済新聞(2025年1月10日)が報道。2026年4月入社の学部卒の初任給について、転居転勤に同意し本拠地外に勤務する場合は最大約41万円、転居転勤なしの場合は全国共通で約29万円と設定された。同社の公式採用サイトでも、転居転勤実現時は約39万〜43万円/月と記載されている。
結論: 正確。人気上位の大企業では30万円超えがほぼ常識化しつつある。東京海上日動の転勤あり41万円/なし約29万円という制度も報道通り。ただし全企業で見れば30万円以上は「約2割」であり、文字通り「当たり前」かどうかは定義による。
調査③:「新卒でしか入れない会社」は本当に減ったのか?
動画での主張:
常見氏は、かつて「新卒カード」が重視されていたメガバンクや総合商社、東京海上日動などでも、新卒と中途の採用比率が半々に近づきつつある(あるいは4対6)という趣旨のことを述べていた。「新卒でしか入れない会社」が減ってきているという、雇用市場の構造変化に関する指摘だった。
データによる検証:
日本経済新聞(2024年4月30日)によると、3メガバンクの2024年度採用計画において中途採用比率は45%と5割に迫った。三菱UFJ銀行は中途600人・新卒400人の計画で、中途が新卒を初めて上回った。Business Insider Japan(2025年7月23日)によれば、同行のキャリア採用は2021年度の約60人から2024年度に約550人へ急増し、2025年度は700人を計画(新卒640人を上回る見通し)。
日本経済新聞(2025年5月1日)は、3メガバンク合計の2025年度中途採用計画が1,170人で過去最高となったと報じ、「計画通りに進めば中途組が過半を占める銀行もある」としている。5年前と比べて中途採用は5.7倍に拡大した。
結論: 正確。特にメガバンクでの変化は劇的で、三菱UFJ銀行では中途が新卒を逆転した。「新卒でしか入れない会社が減った」という主張は、データで明確に裏付けられる。
調査④:新卒3年以内の離職率は「32〜33%で横ばい」か?
動画での主張:
新卒の3年以内離職率はここ数年32〜33%程度でほぼ横ばいである、という趣旨で語られていた。「3年3割」の法則が依然として続いているという文脈での言及。
データによる検証:
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(2025年10月24日公表)に基づく大卒3年以内離職率の推移は以下の通り。
| 卒業年 | 3年以内離職率 |
|---|---|
| 2018年3月卒 | 31.2% |
| 2019年3月卒 | 31.5% |
| 2020年3月卒 | 32.3% |
| 2021年3月卒 | 34.9% |
| 2022年3月卒 | 33.8% |
2018〜2020年卒では31〜32%台で安定していたが、2021年卒で34.9%に上昇し、2022年卒は33.8%とやや戻した。日本人材ニュースONLINE(2025年8月29日)は「2018年卒以降、増加傾向にある」と指摘している。
結論: 概ね正確だが、直近では「横ばい」というよりやや上昇傾向がみられる。「3年3割」の大枠は変わらないが、33〜35%に上がりつつあるのが実態。
調査⑤:「黒字リストラ」の常態化 ——パナソニック・フジテレビの事例
動画での主張:
パナソニックやフジテレビを例に挙げ、5,000万〜1億円といった破格の条件での早期退職募集が行われているという趣旨のことが語られていた。黒字企業でも大規模な人員削減が進んでおり、もはや会社が人を選ぶのではなく、若者が会社を選ぶ時代になっているという文脈だった。
データによる検証:
パナソニックHDは2025年5月に国内5,000人・グローバル1万人の人員削減を発表。同社は2025年3月期に3,000億円超の純利益を計上しており、典型的な「黒字リストラ」として注目された(出典:日経ビジネス、2025年10月17日)。応募者は想定の1万人を上回り、1万2,000人に達したと報じられている(出典:ABEMA TIMES、2026年2月5日)。
フジテレビについては、2021年11月に50歳以上・勤続10年以上の社員を対象に希望退職を募集し、2022年3月期に90億円の特別損失を計上。応募者は約100人とみられ、退職金が「1人当たり1億円」規模と報じられた(出典:日本経済新聞、2021年11月25日 / ダイヤモンド・オンライン)。
東京商工リサーチの集計によると、2025年に早期退職を実施した上場企業のうち6割超が黒字企業であり、募集人数は前年同期比約2倍のペースで推移している(出典:弁護士JPニュース、2026年1月6日 / HRプロ)。
結論: 正確。パナソニック・フジテレビともに報道データで裏付けられる。黒字リストラは2025〜2026年にかけて加速しており、「常態化」という表現は妥当。
まとめ:動画の主張 vs 公開データ 一覧
| 動画での主張 | 判定 | データによる裏付け |
|---|---|---|
| 総合商社の平均年収がコロナ前1,450万円→現在2,050万円 | ✅ | 三菱商事2,033万円、三井物産1,996万円(2025年3月期有報) |
| 伊藤忠 部長4,000万円・若手2,000万円 | ✅ | 内部資料で部長級最高4,110万円、担当者最高2,500万円(最高評価者) |
| 大企業の初任給30万円超えが当たり前に | ✅ | 2026年度に245社が30万円以上(前年比9割増)。人気上位20社中16社が該当 |
| 東京海上日動の初任給 転勤あり41万/なし30万台前半 | ✅ | 転居転勤あり最大41万円、なし約29万円(日経・公式採用サイト) |
| メガバンク・商社で中途採用が半々に | ✅ | 三菱UFJ銀は2025年度に中途700人>新卒640人。3メガ全体で中途比率45%超 |
| 新卒3年以内の離職率は32〜33%で横ばい | ⚠️ | 2022年卒で33.8%。大枠では正確だが、直近はやや上昇傾向(2021年卒34.9%) |
| 大卒で毎年約43万人が社会に出る | ✅ | 2024年春の正規雇用就職者43万1,472人(文科省・厚労省調査) |
| パナソニック・フジテレビで破格条件の早期退職(黒字リストラ) | ✅ | パナソニック1万2,000人応募、フジテレビ90億円特損。黒字企業の実施が6割超 |
※ ✅ = データで裏付けられる / ⚠️ = 概ね正確だが一部留保あり
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